鍾馗さんの画像 博覧会
美術工芸史・近代産業史を専門とする前崎信也先生(京都女子大学)と煎茶道の
一茶庵・佃梓央さんとともに、今回も色んな分野で経験を積んでこられた
方々が集まり、和やかな雰囲気のなか茶時を過ごしました。
テーマは ”イノベーション”。
はじめに佃さんが、爽やかな所作のもと雁が音のお茶を淹れていきます。
お茶をいただきながら、空間に掛けられているお軸についてのお話が
前崎先生から切りだされます。
京都では親しみ深い鍾馗さん。
中国で鬼を退治した伝説の英雄で、邪気を祓うと信じられてきました。
このお軸を描いたのは菊池素空。
京都画学校を卒業し、欧州歴遊後、京都高等工芸学校の先生となり、
焼物を焼く人に絵を教えていました。
彼が生きたのは、毎日社会やシステムなど様々なことが変わり、考え方も
変えることを求められた明治のイノベーション時代。
工芸の世界も同様、絵は急に生物学的に忠実に描くことが正しいと教え
られていきます。
そして、見えているものの奥を読み解いたり、想像をかきたてるような絵は
徐々に姿を消し・・・。
次に壁に掛けられた絵は世界初の英字新聞、THE ILLUSTRATED LONDON NEWS。
「芸術と産業のための博覧会」(1872年)と「都踊り」(1873年)を描いた
ものです。
博覧会は京都の西本願寺、建仁寺、知恩院で開催され、今では考えられない
ような建物の中でステッキをついたり、土足・タバコOKのスタイルでした。
そして、当時の日本の様子を素直にとらえた、思わずクスッと笑ってしまう
記事が添えられています。
時代によって変化するイノベーション。
驚きながらも受け入れてきた人々の暮らしを垣間見たように感じます。
今回の煎茶道具は「白と黒」だけで組まれたシンプルなもの。
そこには、英字新聞の白黒のスケッチと一体になることで、「白黒世界を
立体的に色彩豊かに想像する」という佃さんのコンセプトがこめられています。
英字新聞のスケッチの中に吸い込まれるようにタイムスリップし、
当時の人びとの賑わいに身をおき、切なくも楽しい時空間を旅した茶時。
文化におけるイノベーションおいて、決して忘れてはならない大切なものに
再び出会いました。