先日、左右にて煎茶道の三癸亭賣茶流の島村幸忠さんと一茶庵の
佃梓央さんとともに茶時(chatoki)を愉しみました。
窓の外では、木蓮の爽やかな緑が風に揺れています。
亭主の島村さんが、佃さんのお話のいい頃合いを見計らって、
宇治の玉露をゆったりと淹れていきます。
今回のテーマは明治時代。
人々の暮らしやモノを通して時代を見てみると、学校では教わら
なかった歴史の奥深さや見過ごされてきた日本の心を知ることが
できます。
まずは京焼を例にとってお話が進んでいきます。国が開かれ、
あらゆる情報や新たな価値観が生まれた明治時代。
そのなかで人びとが集い、新しいものを生みだす原動力となった
ものは、一体何だったのか、佃さんは問いかけます。
テーブルの上に静か
に佇む金蘭手急須と湯冷ましは、幕末に京焼・
初代宮川香齋によって作られました。
これまでの赤土のシンプルな急須から大胆に変化し、赤に金の
絵付けが施されています。
それは頼山陽や田能村竹田、篠崎小竹、大塩平八郎や小石元瑞らの
ような、様々な分野の人が集い、自由闊達な煎茶のサロン文化から、
時代とともに使い手が変わり、考え方や求められるデザインが
大きく変わった瞬間でした。
煎茶道の世界では、話題によってお茶の味に変化をもたせるという
愉しみ方があります。
また急須を持たない家庭が増えたといわれる現代ですが、急須で
お茶を淹れると、温もりのある音・豊かな香り・美しい色・変化する
味わい、唇から舌、喉へと流れおちる感覚、すべての五感が
穏やかに開かれるという愉しみ方もあります。
心と深く関わるお茶によって解き放たれる世界があるように思えた
茶時でした。