【特別賞】市岡 和憲さん(京都府)・甲斐 幸太郎さん(大阪府)
作品名:『×2』
– 作品説明 –
市岡和憲さん
無名異焼の伊藤赤水先生から練上げ技法を学ぶ機会がありました。その時に教わった事を活かして新しい作品表現してみたいと思い小さなモノを制作しました。異なる土をストライプ柄に組み上げて作る基本的な仕事であるが焼け具合も良く上手く茶陶感あるものに仕上がったと思います。
甲斐幸太郎さん
市岡さんから刳り抜きの外箱を依頼され制作しました。刳り抜きということで木の塊感を表現しようと思い、表面を揺らぎのあるノミのタッチで仕上げ、蓋と身を凹凸で嵌め込む形状にしてより一体感を感じられるようにしました。
古代遺跡の石組みのようなプリミティブな中に知性を感じさせる物にとても惹かれます。そんな雰囲気の物を造りたいと思い制作しました。
– Profile –
市岡和憲さん
1968年京都生まれ村田亀水に師事、煎茶道具を制作する。技術研修のため2017年中国宜興、2018年佐渡ヶ島無名異焼を訪れる。近年、喫茶全体の空間を自身の感覚で表現組み立てる事を目指し制作を行う。
甲斐幸太郎さん
1976年愛知県出身。京都伝統工芸専門学校木工芸専攻を卒業後、木漆工芸作家藤嵜一正氏に師事。独立後は器や家具等を制作している。
【講評】
佃 梓央氏/ 煎茶家・一茶庵宗家嫡承
さまざまな種類の土の層が何層も重ねられた円筒形の作品。これが茶を楽しむ空間の中でどんな役割を果たしてくれるかと思いを巡らせてみると、パッと思い浮かぶのは茶巾を入れる筒「巾筒(きんとう)」でしょう。しかし作家さんご本人の言葉を読むとこれは「杯」として、つまり、茶や酒を飲むための器として用いてもらいたいとのことでした。そのギャップにズッコケながら笑わされてしまったわけですが、「巾筒」と思われてしまわない造形にした方が洒落は効いたのではないかと私は思いました。何の用途かわからない造形物を茶の楽しみの中で使ってみたり、茶とは全く関係ない用途が意図されて生まれてきた造形物をあえて茶の中で使うところに洒落が生まれます。茶文脈の中で使われる造形物同士で洒落てみても、洒落の幅が狭く、共感を得にくいのではないかと危惧しました。もし作家さんの中で「巾筒」を意識していなかったとしても、そう見えてしまったので洒落の幅が近くなってしまったようです。
しかしながら、土そのものがそのまま見え、土の質感もそのまま残っているボディと、この作家さんの磁器系の作品にも見られるラインの独特な繊細さのバランスには惹かれるものがありました。そのバランスが縄文土器のシンプルな小品のような印象を受け、縄文土器風の茶器、などという今まで見たことのない、そして実際にあったはずもない新たな世界への可能性が見いだせました。
新しい何かを生み出そうとする時、現代の技術と、遠く離れた過去の造形や精神性とを掛け合わせようとするのはよくあることです。日本での煎茶器制作は、江戸時代以来、主に中国明代、清代の陶磁器を「写す」形で発展してきました。その系譜で煎茶器を制作されているこの作家さんには、ぜひ、その系譜から飛び出すように、例えば(あくまでも「例えば」の話です)縄文土器いう系譜外の過去の造形物を、現代の技術とご本人の個性でもって「写し」直した茶器を期待しています。
箱とのセット作品として「×2」というタイトルで出品されていますが、現状ではメインが円筒形の造形物、サブとしての箱という関係を覆しきれず、中身と箱とを拮抗させるだけのもうひと工夫もこのタイトルにするのであれば必要です。現状であれば、メインが造形物、サブとしての箱という関係の中でタイトルをつける方がタイトルは成功したのではないでしょうか。
次回も楽しみにしています。ご受賞おめでとうございます。