【特別賞】 茶室『層雲』 素材:不織布(二畳折り畳み)
住田 薫さん(京都府)
= 講評 =
前﨑 信也氏(美術工芸研究家・京都女子大学准教授)
場を仕切るということ、たためて持ち運べる茶室の壁というのは面白いです。
独特な光の透け方をする不織布を染め分けているのもテーマと沿っていて
素晴らしい。ただし「どんな場所でどのように使うと最も効果的か」と
いうような説明を、ご自身で使用した経験に基づいてしていただけると、
さらにイメージが膨らんだと思われます。
佃 梓央氏(煎茶家・一茶庵宗家嫡承)
「茶に関する工芸品の公募展」に、「茶室」を応募されたというストーリー
が面白く、初めから目を引く作品でした。逆にこの公募展は「茶に関する
工芸品」を審査する会ではなく、あくまでも「茶となるべき要素=ティー・
エレメント」を公募する会なのだと思い知らされた次第です。
しかも、「茶室」という大きくハードと考えられがちな「建築」を、小さく
折りたためるソフトな「囲い(場を囲むもの)」として提示されたことで、
「茶室」という「定数」があってその中で変数としての道具がコトを起こす
のが「茶」ではなく、「茶室」もまた「変数」なのだと、再認識させる
提案性がありました。ただ、広げて立ち上げられた「茶室」そのものに、
もうひとひねり、もう一工夫、遊びの要素が見たいです。
中山 福太朗氏(茶人・会社員)
30cm立方に収まるもの、という制限の中で茶室を作るチャレンジが
素晴らしいです。
不織布を四面に張る形で茶の空間を作った作品ですが、深い青で染めた色の
グラデーションの繊細さに、茶の空間たる雰囲気の作り方がよく分かって
いるな、と思いました。
ただ、まだ工夫ができると思います。躙口や床の間の付加、また現代の
空間にどうやって設置するかというテクニカルな部分も含めて完成度が
高まれば、より良 いものになるはずです。
層雲とは、気象学の分類のうち、最も低いところに現れる雲です。
層状または霧状の雲ですが、ちぎれて独特のカタチになることもあります。
山すそにたなびいたり、私たちが日常を生活する地上付近にも発生します。
それは、そんな最も手近にある雲をまとう、囲いです。
なんとなく向こうの気配が感じられうような、ふんわりとゆるやかな囲いは、
日常生活からすこしだけ離れて、お茶の時間をつくり出します。
使う場所、人、状況によって、柔らかくカタチをかえます。
(住田氏 出品票より一部抜粋)
*
囲いのなかに入ると、不思議と圧迫感や狭さは感じず、鳥のさえずりや
葉が揺れる音が聞こえ、墨絵の世界に入り込んだような感覚が心地よく
感じます。
風をとらえる茶室は揺れる度に外との境を曖昧にしながら、層雲が
カタチを変えて棚引き、しっとり光ります。
(文・撮影= Izumi TK)
『第2回 ティー・エレメント展』開催中 3月21日(日)まで
OPEN 木・金・土曜日 11:00-18:00