【審査員特賞】 茶入『一霊皮袋』 素材:天然木・天然漆・銀・炭粉
若宮 隆志さん(石川県)
= 講評 =
前﨑 信也氏(美術工芸研究家・京都女子大学准教授)
錫器を模した漆の代わり塗りだけではなく、銀を使った研ぎ出し蒔絵で
表現された髑髏、内側の前面に貼られた金箔と、高い技術の裏付けのある
最高品質の漆作品です。作品としては、もう少し広がりのあるテーマを
持っていたほうが使いやすくなると思われます。
佃 梓央氏(煎茶家・一茶庵宗家嫡承)
本公募展の審査として書くべきことは何もない作品でした。技術力の高さ、
ご本人の個性の発揮の仕方、つまり、何に驚かせたいか、どこで笑って
ほしいか、本当に練り上げられた作品です。
ここからは数々の茶の湯の道具や煎茶道具にどう挑んでいき、新しい名品を
作られるか、期待してやまないところです。
中山 福太朗氏(茶人・会社員)
非常に完成度が高いと感じました。一体どうやって作ったのか分からぬ
髑髏の蒔絵は、技術を見せたいだけでなく、その意匠に使う理由が明確で、
また書かれた物語も、茶心壺という煎茶の道具に乗せるにはピタリ合うもの
です。この『分かっている』感に、ニヤリとさせられました。
なぜこれだけ褒めて大賞に推せなかったかというと、どの点をとっても
高度なレベルにありましたが、いずれも知っている範囲のことだったから
です。
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偶然にも瞳に映った畳の織り目が、まっすぐにこちらへ伸びてくる様子が、
漆黒と相まって意識が吸い込まれていくようです。
この茶入に蒔絵で描かれた物語。
深くゆっくりと魂に語りかける、奥深い作品に思います。
(文・撮影= Izumi TK)
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この言葉を作品に描くことで、皮袋を茶入に見立て茶入に我々が先人から
受け継いできた魂が宿ることを知っていただき、さらにこの茶入を使う度に
その魂が成長し永遠に生き続けることができると考えたからです。
私の意図とは別の発想が広がり想像の世界で楽しむことを望みます。
(若宮氏 アンケートより一部抜粋)