第2回 ティー・エレメント公募展【大賞】作品のご紹介

Activity in Japan日本での活動



【大賞】 茶杓・共筒『余光』 素材:鹿角 北村 隆浩さん(神奈川県)

= 講評 =

前﨑 信也氏(美術工芸研究家・京都女子大学准教授)

すぐれた作品というのは使う人、鑑賞する人に、多様なイメージを
連想させることができるという要素を持ち合わせているものです。
鹿には日本・中国それぞれの文化で異なる意味を持っています。
これだけ彫り込んだ鹿角には生や死を連想させるものでもあります。

さらに誰が見ても洗練された技術が必要であることがわかります。
出品表の北村さんご自身の解説でもこういった作品のポイントを押さえ
られており、特に言いたいことはありません。
触るのが怖いと感じると同時に触ってみたくなる…いくつもの二面性を
はらんだ優品です。

佃 梓央氏(煎茶家・一茶庵宗家嫡承)

本作の素材選択力と造形力は、ステレオタイプの「茶」の型にはなく、
新しい茶文化を切り拓くこの公募展の「大賞」として相応しいと考え、
初めから本作を推させていただきました。「鹿の角」という生命力の
強い素材を使い、茶の湯が行われる「茶室」や煎茶が開かれる
「文房(書斎)」という空間に、「合う」のではなく、「挑みかかって
来る」ような提案力がありました。

「茶」を知りすぎることなく、攻撃的に「茶」に提案して来られる作品を
これからも期待します。また、ご本人が「これは茶道具ではない」と
考えている作品にこそ、実は本作以上に「茶」への挑戦状を叩きつける
力強い提案力のある作品があるのかもしれないと期待は膨らむばかりです。

中山 福太朗氏(茶人・会社員)

美しく、見たことがなく、ジャンルを超えながらも無理がなく、ギリギリ用を
為し、何より使ってみたいと思いました。様々きわどいバランスを取り
ながらも、そのリスクを冒した価値ある作品になっていると思い、大賞に
推しました。

元は象牙から始まった茶杓は、日本で茶が侘び化していく中で竹を用いる
ようになりました。今、象牙を新しく増やすことは困難であり、市場に
あるものを回してゆくことでしかできません。そんないずれなくなる素材を
用いずとも、放っておけば肉を取られて捨てられるだけの素材、鹿の角を
使って十分に美しいものができる。
しかも、把持した際に象牙にはない軽やかさと柔軟性をもつ素材の特性を
ダイレクトに感じられる形状に加工し、茶杓という道具に落とし込んだ点は、
素材・加工・用途それぞれをよく理解しており、素晴らしいと思いました。

欲を言えば、杓、匙としての姿形の美しさは、もっと追求できるのではと
思いました。世界各地、様々な時代に匙は存在しています。
素材・技と相性が良く、参考になるものがあるはずです。


生命の形とは存在する形と消滅する形の間に漂っています。
消え逝く形の欠片に命の儚さと強さを感じるのは私自身もその間で
生きる者としての命が共鳴しているのではないかと感じます。

「余光」の茶杓と筒から繋がる物や人や景色や未来に送る眼差しが
慈しみを纏いそれこそが生活の中で自分自身の命を体感する道具に
なればと思っております。

「余光」とは日が暮れてなお残っている光のこと。
筒に茶杓を収めると道具としての茶杓の存在も筒の存在も薄れて
いきます。ただそこには残された命の形が存在しているだけとなります。
(北村氏 出品表より一部抜粋)

*

この世に生まれる瞬間と去る瞬間の狭間、一切の音のない世界。
そんな感覚がこの作品から伝わってきます。
生の根源である水や植物と同じ場所にこの作品が佇むと、かつて
この角の持ち主である鹿の生き様と土に還る痕跡の両方が存在し、
あるがままを受け入れるということ、また作家がいう「命の体感」が
雲の切れ間からまっすぐに伸びる、いく筋もの光となって心を優しく
照らしているように感じます。

(撮影・文= Izumi TK)

『第2回 ティー・エレメント展』開催中 3月21日(日)まで
OPEN 木・金・土曜日 11:00-18:00

The 1st photography by Shinya Maezaki

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